ウィルコムのAdvanced W-ZERO3[es]やイー・モバイルのEM・ONEαなど、Windows Mobile 6を搭載するマシンがいくつも登場している。ここでは、Windows Mobile 6と従来のWindows Mobile 5.0の違いについてご紹介しよう。
■ Windows Mobile 6の位置付けとエディション Windows Mobileは、Windows CEをベースにしたスマートフォンやPDA用のオペレーティングシステム製品の名称である。これまでのものは、Windows Mobile 5.0 Software(以下WM5)という名称で、スマートフォン用やPDA用など、3つのエディションがあった。その、後継OSとして開発されたのがWindows Mobile 6である(以下WM6)。今回は、数字が6.0ではなくて6となっている点に注意されたい。 このWM6には、3つのエディションがあり、従来のWM5各エディションとの対応は、以下のようになる。これまではスマートフォン用とPDA用の2本立てという感じだったものが、WM6では、名称的にはスマートフォン用がメインという形になった感じだ。
Windows Mobile 5.0
Windows Mobile 6
用途
PocketPC Edition
Classic Edition
PDA(電話機能なし)
PocketPCPremium Phone Edition
Professional Edition
スマートフォン
Smartphone Edition
Standard Edition
スマートフォン(タッチパネルなし)【表1:WM5とWM6の各エディションの関係】
スマートフォン向けとPDA向けの違いは、電話関連機能が提供されるかどうかである。また、電話機能のあるStandardとProfessionalの違いは、タッチパネルの有無だ。
WM5やWM6のアダプテーションキット(ハードウェアメーカーに提供される移植用のキット)には、電話機能を実現しているモジュール用のHAL(Hardware Abstruction Layer)が含まれており、さまざまなメーカーの携帯電話通信モジュールやベースバンド回路の機能をWindows Mobile側に提供する。 しかし、このHALは、GSMなどのシステムにしか適合せず、とくに、日本独自の通信モジュールを組み合わせることができないという問題がある。このため、ウィルコムのWM5搭載端末などは電話機能を持っているものの、スマートフォン版ではなく、Classic Edition(WM6)やPocketPC Edition(WM5)を使って作られている。 これは、Windows Mobile側の制限によるためで、このためにW-ZERO3などの電話機能や通話アプリケーションは独自のものとなっている。幸いなことに、W-CDMAはGSMと共通する部分があるために、Windows MobileはW-CDMAには対応が可能だ。 なお、WM6は、番号こそ6だが、カーネル部分は、WM5と同じWindows CE 5.xを採用している。Windows CEでは、新しいカーネルを採用したWindows CE 6.0がすで出荷されているが、WM6は、これを採用しておらず、カーネル機能はWM5と同じままだ。 CE 6.0の新カーネルでは、I/O処理が効率化されていたり、メモリ管理が改良されたなどのメリットがある。残念ながら、WM6は、このCE 6.0カーネルを採用しておらず、バージョン番号的には、CE 5.2となっている(WM5はCE 5.1である)。
■ 付属アプリケーションの強化点 WM6では、カーネルのバージョンが違っているほか、付属アプリケーションも強化が行なわれている。一部の機能は、Exchange Serverとの組み合わせで有効になるため、一般ユーザーが使うことはできないが、HTMLメールへの対応など、便利になっている点がある。
●Outlook Mobile:HTMLメールへの対応など 付属の予定表やメール機能は、Officeに含まれているOutlookのモバイル版という形になっており、「Outlook Mobile」と呼ばれる。このうち、メール機能については、以下のような点が強化されている。 ・HTMLメールへの対応 ・メール作成時の英文スペルチェック機能 ・Infomation Right Management(IRM)への対応 これまでのOutlook MobileではHTMLメールには対応していなかった。デスクトップ版のOutlookやOutlook ExpressがHTMLメールをデフォルトにしていたこともあって、HTMLメールをそのまま送るユーザーも少なくないが、それをWindows Mobileでは読めなかったのである。最近では、ニュースレターなどHTML形式で送られてくるメールも少なくない。
改良された予定表の週間表示。選択された予定の内容は、常に下の部分に表示される ようやくという感じもするが、HTMLメールに対応したことで読みにくかったメールも少なくなる。ただ、このHTMLメール対応だが、デスクトップ版のOutlook Expressなどと完全に同一とはならない場合がある。表示機能は、付属のInternet Explorer Mobileの機能を使い、IE Mobileがデスクトップ用のIEとは完全に同一でないために生じる違いが出てくる。また、実際に動かしてみたところ、デスクトップ上のOutlook Expressなどでは問題がない場合でも、Outlook Mobileでは、表示が正しくできない場合があった。 Infomation Right Management(IRM)は、Office 2007から対応が始まったドキュメントなどのセキュリティ管理機能である。Outlook Mobileのメール機能は、このIRMに対応し、メールの転送などを禁止することができる。ただし、そのためにはExchange Server(2003 SP2以降)、Windows Server 2003やWindows Rights Management Servicesなどが必要になる。 このほか、予定表などが若干改良されている。たとえば、「週間」表示では、これまで、予定のグラフ部分をタッチしたときにタイトルバー下に表示していたが、WM6では、ウィンドウ下部に予定名称などを表示する領域ができ、タイトルバーの下は、日付などを表示し続けるようになった。これにより、若干ではあるが、予定がわかりやすくなった。
●Office Mobile:docx形式などに新たに対応 WM6に搭載されているOffice Mobileには、以下3つのソフトウェアが含まれている。 ・Word Mobile ・Excel Mobile ・PowerPoint Mobile これらの機能を使うと、メールに添付されたOffice文書などを閲覧、編集することが可能になる。Office 2007の新ファイル形式や、前述のIRMへの対応などが主な改良点として挙げられる。 Word Mobileは、その名の通りWordのモバイル版で、カラム表示などは行なえないが、書式付きのドキュメントの表示、編集が可能となっている。 今回新たに、Office 2007の新しいファイル形式である、docx形式に対応した。実際に試したところ、デスクトップ側でルビをつけたような場合に、Word Mobileでは表示ができないが、Word Mobile側で編集を行なっても、表示できていない部分が失われることはないようだ。 ただし、Word Mobileでは、docx形式で読み込んだものをdoc形式でセーブすることはできないようなので、ファイル形式の扱いには注意したほうがいいだろう。 Excel Mobileも同様に、xlsx形式に対応しているが、バイナリ形式であるxlsb形式には対応していない。 PowerPoint Mobileは、スライドショーによる表示のみ対応で、編集機能は持たない。CRT出力が可能なWM6マシンでは、これだけでプレゼンテーションが可能となる。
●IE MobileとWindows Live:JavaScript機能強化など IE Mobileは、JavaScript機能の強化や高速化、IFrameタグの対応、そして高解像度表示機能などに対応した。これまでのIE Mobileと比べるとAjaxのサイトなどを閲覧できる可能性は高くなったが、あまり複雑なAjaxコードなどには対応できないこともある。 たとえば、Google MAPやCalendarなどは、表示が不完全になることがある(モバイル版の表示は可能)。このためか、Operaなどを別途付属させている場合も少なくない。このあたりは、もう少しがんばって欲しかったところだ。 WM5では、ハードウェアとしては、QVGA(320×240ドット)を越える解像度が利用可能だったが、付属アプリケーションの大半は、互換性のため、VGA(640×480ドット)が表示可能なディスプレイであっても、QVGAで表示していた。具体的にはIE MobileもQVGA表示になっており、せっかくの高解像度ハードウェアが利用できない状態だった。 WM6では、IE Mobileが高解像度ディスプレイに対応したため、高解像度を生かした表示が可能になった。800×480ドットなどのWVGAを採用するハードウェアもあり、これまでよりWebページが見やすくなっている。 たとえば、VGA表示・WM5搭載のW-ZERO3[es]と、WVGA表示・WM6搭載のAdvanced W-ZERO3[es]でiGoogleのページを表示させてみると、WM5では、文字が化けるなど表示が完全におかしくなっている。一方、WM6では一部おかしいところがあるものの、ガジェットがちゃんと表示されている(なお、比較のため、高解像度表示はオフにしてある)。
WM5とWM6によるiGoogleの表示の違い。左はVGA表示・WM5搭載のW-ZERO3[es] 、右はWVGA表示・WM6搭載のAdvanced W-ZERO3[es] また、日本語版のWM6ではようやくMessengerが標準装備となった。Windows Mobileでは、以前よりMessengerがサポートされていたのだが、日本語版には、搭載されていなかった。しかし、WM6ではWindows Liveが標準搭載となり、Live Messengerが利用できるようになった。 このLive機能は、アカウント管理などを行なうWindows Liveプログラムと、Messengerプログラムから構成されており、Today画面にアイテムとして「Windows Liveサービス」アイテムを配置できる。Windows Liveプログラムでアカウントを登録すると、自動的にOutlook MobileにHotmailのアカウントが登録される(ただしHotmailアカウントをLiveアカウントとしている場合)。
高解像度表示機能のオンオフによる表示の違い。どちらも画面サイズに合わせる機能を使った場合で、高解像度機能をオフにした状態はWM5での表示とほぼ同等になる ●その他の強化点:ZIP形式への標準対応 その他の強化点としては、ZIPなどのファイル形式への対応が挙げられる。 かつてWindows Mobileは非力で、インターネットから直接ファイルをダウンロードしてインストールするといった作業は難しかった。しかし、最近では無線LANや高速な通信機能も利用可能となり、外出先でも必要なファイルをダウンロードしてインストールすることも不可能ではなくなった。 ところが、残念なことにWM5までは、ZIPファイルなどを解凍するのに専用ツールが必要だった。WM6は、ZIPファイル形式に標準対応しているため、解凍ツールなどを導入することなしに、ZIP圧縮されたファイルを扱うことが可能となった。 このほか、Windows XP等が持つ、FAX機能で利用するマルチページのTIFFファイルへも対応し、FAXを直接表示することが可能になっている。
ZIPファイルを開き、中身を取り出すことが可能になった
Windows XPなどが持つFAX機能で扱うマルチページTIFFファイルの表示が可能になった セキュリティ系では、メモリカードの暗号化機能が追加されている。本体にはパスワードを付けてアクセスできないようにする機能があり、内蔵フラッシュメモリを保護することができるのだが、取り外し可能なメモリカードは、本体のパスワードでは保護できない。このため、WM6では、メモリカードを暗号化し、他のマシンでは読めないように設定することができる。 日本語版のWM6では、ようやくRemote Desktopに対応した(Professional/Classicのみ)。これも英語版などでは以前からサポートされていた機能だが、日本でのWindows Mobileのビジネスが大きくなかったために、日本語化作業が複雑になるRemote Desktopは、搭載が見送られていた。 ウィルコムのW-ZERO3発売以降、日本でもWindows Mobile搭載マシンが増えてきたため、このWM6からは、ほぼすべて機能が移植されるようになった。 なお、WM6には、インターネットシェアリングの機能がある。これはBluetoothなどを使って、Windows Mobile機のインターネット接続をほかのマシンから利用するためのものだ。ただし、筆者の手元にあるAdvanced W-ZERO3[es]、EM・ONEαのどちらもこの機能を装備していない。このあたりは、OEMメーカーの判断によるものだ。Windows Mobileをどのような形で提供するのかはOEMメーカーの判断であり、ソフトウェアを独自に追加するところもあれば、提供されているコンポーネントを省略することもある。 また、ユーザーが直接使うことはないが、ソフトウェア開発者から見た違いとして、.NET Compact Frameworkと、SQL Server Compact Editionが標準で搭載された。従来は別途ユーザーがインストールする必要があったのだが、標準搭載されたことにより、これらの機能を必要とするアプリケーションが簡単に利用できるようになった。
■ いま購入するならWM6搭載機種を。急がないならCE 6.0カーネル待ちか カーネルが変更されていないので、今回の変更はおもに搭載アプリケーションの変更が中心となった。大部分は変更されていないものの、HTMLメールへの対応やIEの高速化など、メリットのある部分もある。市場には、まだWM5の機器もあるようだが、これから購入するなら、WM6が搭載された機種を選択すべきだろう。 ただ、現在WM5を使っていて、ハードウェアなどに大きな不満がなければ、わざわざ買い換える必要性があるとはいえない感じだ。たとえば、GoogleのサービスなどもPC版での表示は正しく行なえないが、モバイル版のサービスであれば、旧来のWM5マシンでも十分可能だ。 Google Mapなどは、Windows Mobile専用のクライアントプログラムがあり、これを使うことで大きな地図を表示できる。また、HTMLメールも、Gmail経由で見るといった方法がある。こうした状況を考えると、必ずしもWM6がないとダメということはないと思われる。 おそらく、2008年以降のWindows Mobileのバージョンアップでは、Windows CE 6.0カーネルを採用することになる。安い買い物ではないし、個人的には、待てるのなら、そのタイミングまで待つのもいいのではないかと思う。
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